嫌気性菌

嫌気性菌とは発育に酸素を必要としない細菌である。反対に発育にO2が必要な細菌を好気性菌という。

嫌気性菌は、土壌や河川、海、動物の粘膜上などに比較的多量に存在しているほか、ヒトの腸管・口腔・性器粘膜にも常在菌として存在している。
嫌気性菌はその芽胞を持つ有芽胞性嫌気性菌と芽胞を持たない無芽胞性嫌気性菌に分類されている。

有芽胞性嫌気性菌

ヒトに病原性を示す有芽胞性嫌気性菌はClostridium(クロストリジウム)属のみである。芽胞を作ってO2の存在下でも存在することができるため通性嫌気性菌とも呼ばれ、環境中に広く存在している。外毒素(エクソトキシン)を産生するなど病原性の強いものが多く、それぞれ特有の疾患(破傷風、ガス壊疽など)を引き起こす。

Clostridium(クロストリジウム)属

C.botulinus(ボツリヌス菌)
過去に加熱滅菌処理を怠った真空パックの辛子れんこんの嫌気的条件下で増殖し、それを食べた36名中11人がボツリヌス中毒で死亡した例が存在する。いずしやはちみつなどの食品も原因となる。ボツリヌス毒素は副交感神経を麻痺させるため、嚥下構音障害や複視、眼瞼下垂などの症状が現れる。特に、腸内細菌叢がまだ整っていない乳児に蜂蜜を食べさせると乳児ボツリヌスを発症するリスクがあるため注意。

C.tetani(破傷風菌)
芽胞の形で公園の砂場などの土壌中に広く存在しており、皮膚創傷面から侵入する。感染すると破傷風が産生する破傷風毒素(テタノスパスミン)による急性中毒症状を起こす。この毒素は神経毒で、通常3〜21日の潜伏期を経て、開口障害、嚥下困難、全身の強直性痙攣、後弓反張が見られる。

C.perfringens(ウェルシュ菌)
ガス産生をともなう、皮下組織・筋肉の急激な壊死を特徴とする疾患を特徴とするガス壊疽の主要な原因菌。特にウェルシュ菌の産生するα毒素(レシチナーゼC)はタンパク・DNA・RNA分解酵素を含み、リン脂質を分解することで宿主の細胞膜を破壊し組織の壊死や溶血をきたす。カレーやスープ、シチューの大量調理の際に鍋に繁殖するので、十分に加熱するかこまめにパック分けして冷凍することが推奨されている。

C.difficile(ディフィシレ)
健康人の腸管内に少数生息しており、主に広域スペクトルの抗生剤の使用などをきっかけに菌交代症を起こす。一部の菌株はA毒素(腸管毒enterotoxin)とB毒素(細胞毒cytotoxin)を産生し、偽膜性腸炎を起こす。

無胞性嫌気性菌

ヒトの常在微生物であるものが多く、主に腸管や性器・口腔粘膜などに存在しており、健常人では病原性を示さないが、免疫不全患者などに対しては好気性菌との混合感染を起こし、内因性嫌気性菌感染症の原因となりうる。

Bacteroides(バクテロイデス)属

腸管・泌尿生殖器などに存在する常在微生物で、B.fragilisを代表として成人の腸内細菌叢では最も多い菌である。消化器や泌尿器・女性生殖器などの手術後、肝膿瘍や腹膜炎、虫垂炎、腹腔内膿瘍の原因となりうる。近年、βラクタム系の耐性菌が増加している。

その他の無胞性嫌気性菌

Porphyromonas(ポルフィロモナス)属
唾液に含まれる微生物で、Porphyromonas gingivalisは歯周病の主な原因菌として考えられ、女性の細菌性膣炎からも同定されている。

Fusobacterium(フソバクテリウム)属
中咽頭に生息しており、潰瘍性大腸炎や大腸癌などと関連付けられることもあるが、現在まだその証拠は未明である。

Prevotella(プレボテラ)属
女性性器の手術後や出産後に起きる子宮内膜炎、卵管膿瘍、産褥熱などに関わっていると考えられている。

Propionibacterium(プロピオニバクテリウム)属
皮膚に常在しており、痤瘡(ニキビ)を悪化させる原因と考えられている。また心内膜炎、敗血症、サルコイドーシスなどの病気を起こすこともある。

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